再生医療(幹細胞治療)|【基礎解説】組織幹細胞と間葉系幹細胞(MSC)【北青山D.CLINIC】

組織幹細胞と間葉系幹細胞(MSC)― 基礎解説

間葉系幹細胞は組織幹細胞の一種で、骨髄や脂肪組織などから得られます。当院が再生医療に用いるのは、脂肪組織から分離した間葉系幹細胞です。

前のページ(幹細胞とは ― 種類と特徴)では、幹細胞が多能性幹細胞と組織幹細胞に分かれることを解説しました。このページでは、そのうちの組織幹細胞、とりわけ間葉系幹細胞(MSC)について詳しく見ていきます。

このページで分かること

  • 組織幹細胞とは何か、多能性幹細胞との違い
  • 間葉系幹細胞が臨床で注目される理由
  • パラクライン作用とホーミング現象の考え方

1.組織幹細胞とは

組織幹細胞とは、各組織において「維持・再生」に必要な細胞分化能を持つ幹細胞を指します。成体幹細胞、体性幹細胞とも呼ばれます。主に次の2つの性質が重要です。

多分化能

血液、神経、骨、筋肉、血管など、複数種の細胞へ分化できる性質です。ただし分化できる範囲は、組織ごとに一定の範囲に限られます。

自己複製能

分裂して同じ性質の細胞を増やし、欠損した細胞を補う性質です。

組織幹細胞が自己複製しながら、各組織の細胞へ分化していく様子を示した図

組織幹細胞の多分化能と自己複製能

2.多能性幹細胞と組織幹細胞

臨床応用における位置づけ

臨床応用における両者の位置づけ
  多能性幹細胞 組織幹細胞
分化の範囲 体内の多様な細胞へ分化でき、培養下で増殖能が高いことから、適用範囲や供給量の点で優れています。 分化できる細胞種が比較的限定的です。
臨床上の課題 細胞をそのまま移植すると、秩序なく分化し腫瘍(テラトーマ)を形成する可能性が指摘されており、慎重な管理が必要です。臨床で用いる際は、培養環境(培地成分・培養時間など)を制御しながら目的の細胞へ分化誘導する必要があります。 適切に採取・培養できれば、一般に安全性の観点で有望視されます。
臨床応用の例 iPS細胞由来の製品が、条件及び期限付承認のもとで保険適用されています(対象疾患・実施医療機関は限定)。 血液腫瘍性疾患に対する造血幹細胞移植(骨髄移植)は、すでに安全性と有用性が確立された治療です。

今後の臨床応用として、脂肪由来の間葉系幹細胞(MSC)を用いた治療の発展が期待されています。

3.組織幹細胞の種類と、間葉系幹細胞(MSC)

組織の中にはさまざまな幹細胞が含まれています。中でも、脂肪組織に含まれる間葉系幹細胞(MSC)は注目されています。

主な組織幹細胞と、その存在する組織
幹細胞 主に存在する組織
造血幹細胞骨髄
衛星細胞基底膜・筋鞘
腸管幹細胞小腸・大腸
毛包幹細胞毛包
乳腺幹細胞乳腺
間葉系幹細胞(MSC)骨髄、脂肪組織、臍帯、胎盤、歯髄、滑膜・関節液 など
神経幹細胞神経
内皮幹細胞骨髄
嗅粘膜幹細胞嗅粘膜
神経堤幹細胞毛包
精巣幹細胞精巣

※ 当院の再生医療で用いるのは、この表のうち脂肪組織から分離した間葉系幹細胞です。他人由来の細胞(同種他家MSC、臍帯由来MSCなど)は使用していません。

4.MSCが臨床で注目される理由

幹細胞は、幼少期に多く存在し、成熟後も組織が損傷した際に細胞を補う役割を担います。これらは組織幹細胞(成体幹細胞/体性幹細胞)と呼ばれます。

骨髄などに存在する造血幹細胞は半世紀以上前から研究され、臨床応用も進んでいます。その一方で、脳や心臓など、組織によっては生体内から幹細胞を分離することが難しく、治療に用いることが容易ではありません。そこで注目されるのが間葉系幹細胞(MSC)です。MSCは次のような特徴を持つと考えられています。

  1. 発生過程で中胚葉から分化する脂肪や骨などの細胞へ分化できる
  2. 成人の骨髄、脂肪組織、歯髄などから比較的容易に得られる
  3. 中胚葉系(骨芽細胞・脂肪細胞・筋細胞・軟骨細胞など)に加え、条件により他系統の細胞への分化が報告されている
  4. 免疫抑制作用や腫瘍への集積性が報告され、研究が進んでいる

また、MSCは組織エンジニアリング(細胞・足場・栄養を組み合わせて3次元の人工臓器や組織を作り出す研究)でも利用研究が進められています。

※ 培養した細胞が間葉系幹細胞としての性質を保っているかは、細胞表面マーカーで確認します(幹細胞の品質評価と表面マーカー)。

5.MSCの作用の考え方とパラクライン作用

MSCの疾患に対する作用は、特定の細胞へ分化することだけでなく、細胞が分泌する因子が周囲の組織に作用することで発揮される(パラクライン作用)という考え方が注目されています。

パラクライン作用とは

細胞の分泌物が大循環を介して遠方に作用するエンドクライン(内分泌)とは異なり、分泌物が周囲に拡散して近隣の細胞へ作用することを指します。

パラクライン作用として、以下のはたらきが報告されています。

  • 免疫系の制御
  • 血管新生
  • 抗炎症作用
  • 抗酸化作用
  • 抗アポトーシス作用
  • 組織修復作用

この作用には、MSCから分泌される細胞外小胞(エクソソームなど)、サイトカイン、増殖因子などが関与すると考えられています。

※ エクソソーム(Exosome):血液、尿、髄液などの体液中にも存在する微小な小胞で、細胞間の情報伝達に関与する分子を含むとされています。細胞外小胞(extracellular vesicles: EV)の一種です。

※ 細胞そのものではなく、細胞が分泌した成分(培養上清液/幹細胞セクレトーム)を投与する治療については、幹細胞セクレトーム(培養上清液)とはをご覧ください。法律上の扱いも位置づけも、細胞を投与する治療とは異なります。

6.脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC/ASC)

脂肪由来間葉系幹細胞も、骨髄由来MSCと同様に注目されています。臨床面では、次のような点が論点になります。

  • 骨髄に比べ、脂肪組織は採取が比較的容易で低侵襲である
  • 脂肪・骨・軟骨などへの分化能に加え、筋分化能が示される報告もある
  • 一部の細胞群はADSC(adipose derived stem cell)またはASCと呼ばれる
  • 骨髄由来MSCと比べ、増殖能が高く、増殖に伴う老化の影響が相対的に小さいことが特徴として挙げられる

増殖能と、培養の基準

増殖能が高いことは、短期間で必要な細胞数を得やすいという利点につながります。一方で、培養を重ねるほど細胞の性質は変化します。当院が継代3〜5回以内・培養3〜4週間以内を基準としているのは、この変化を抑えるためです。

7.ホーミング現象

ホーミング現象とは

末梢から投与(移植)された幹細胞が、反応部位(ニッチ)へ到達する現象を指します。病変部からの誘導シグナル(細胞外小胞、サイトカイン、接着因子など)と、幹細胞側のシグナル感受が関与すると考えられています。

血管から投与した細胞は、どこへ行くのか

かつては、血液循環内に投与した幹細胞がホーミングによって病変部へ集積し、そこで分化して組織を置き換えることで効果を発揮する、と説明されてきました。

その後の研究により、静脈内に投与された細胞は、報告により約50〜80%がまず肺の毛細血管にとらえられること(肺の初回通過効果)が分かっています。また、投与された細胞の多くは数日のうちに体内から消失します。一方で、肺にとどまった細胞もシグナルを分泌して全身に作用することが報告されており、現在では、幹細胞治療の主なはたらきは分泌するシグナルによって体の側の修復を促すことにあると考えられています。

ホーミングは現在も報告のある現象ですが、「病変部に集積して置き換わるから効く」という単純な図式ではない、というのが現在の理解です。

投与経路を選ぶ理由

肺でとらえられる細胞が多いことは、裏を返せば、特定の臓器や部位へ届けたい場合には経路の工夫が必要であることを意味します。当院が点滴に加えて局所注射・髄腔内投与・動脈カテーテル投与を用意しているのは、このためです。

8.出典

  1. Dominici M, et al. Minimal criteria for defining multipotent mesenchymal stromal cells. The International Society for Cellular Therapy position statement. Cytotherapy. 2006;8(4):315-317.
  2. Abo Y. Real-world safety profile of repeated outpatient autologous adipose-derived mesenchymal stromal cell therapy. Stem Cell Res Ther. 2026(採択・早期公開版). doi:10.1186/s13287-026-05213-z